痛いよ……帰りたいよ……。

声になら無い声で泣き続ける子供がいる。

「これでも生きてるとはな。もう少し強めろ」

「!!あ、ああぁぁぁぁぁぁ!!」

両腕と両足に付けられた枷を嵌められ、固い鉄で出来た台の上に乗せられている、褐色肌のエルフ。

「親の方は使えなくなったが、この餓鬼は中々しぶとい。いや、実に結構なことだがな」

「……やめ……て……帰り……た……」

ああ。

そうだ。

あれは、俺だ。幼い頃の、実験台だった……俺。

『お前達人間は、そうやって他の生き物をおもちゃにする。凶暴だとか危険だとか、幻獣を排除すべきだと言ったお前達人間こそ、この世界で最も残酷で危険な生き物だ』

自分の声が、こだまして響く。

目の前の研究者達には届いていないが。

「さて、次は―」

「た……けて……」

助けなんか来ないのを知りながら、それでも子供は命乞いをした。

死にたくなど無かった。

ただ、生きていたかっただけだ。

「父さん……母さ……」


俺達エルフは、人間に紛れて暮らしていた。

ただ、外へ出る時は、尖った耳を隠す必要があったため、フードを被っていたが。

森の奥に木の家を建て、必要な時だけ町へ行き、静かに過ごしていた。

父と母は穏やかで、そんな二人といられる時間が、本当に幸せだった。

エルフは不老長寿で、美しい容姿をしており、父と母も随分若い姿をしている。

二十歳までは、普通の人間と同じように成長し、二十歳を過ぎれば、成長は緩やかになる。

父と母は、見た目よりもとても長く生きていた。

だからこそ、同じ場所にとどまれなかったが、俺は両親さえいれば、人間と同じように生きられなくても良かった。

二人がいてくれれば、それだけで良かったんだ。

それなのに―。

「ここにエルフがいると聞いた。大人しく出てこい」

あいつらがやって来たことで、俺は大切な二人を失った。