(……私は……)

狂ったように笑っていたルルを、ノエンはどうしてやることも出来なかった。

包帯で巻かれた顔が痛々しく、暫くは右腕も満足に動かせないだろう。

(……これが、私の望んだことの結果ならば、後悔する意味など無い)

この時のために、ただそれだけのために、自分は生きてきたのだ。

全てを奪われたあの日から、憎しみや怒りを糧に生きてきた。

『ノエンさん!』

恥ずかしそうに笑い、薄紅に染まった頬でこちらを見上げる彼女の気持ちなど、余程鈍く無い限り分からないことはないだろう。

初めて出会った時は、化粧などをすれば可愛くなる子だなと、失礼なことを思った。

顔立ちはまず好みでは無かったし、恋愛云々よりも優先すべきことが自分にはあった。

だが、ノエンはルルの内面に惹かれていた。

幻獣達に囲まれ、ラッドを慈愛のこもった目で見つめるその姿に、ノエンは久しぶりに「光」を見た気がした。

数年、闇しか見てこなかったノエンにとって、ルルが見せてくれた光は、自分には眩しく、それでも目を反らせなかった。

あの光に触れたら、自分もその光を受け取れそうだと。

そんなことを思うようになり、気付いた。

案外、自分はルルを気に入っていたのだと。

(けれども、もう彼女から光を感じることはない)

ラッドを恐怖で支配するのか、それとも世話を押し付けて遠ざかるのか。

だが、どちらにしても「死ぬ」と決まっている。

(ルルさんが……死ぬ)

笑うと、光が弾けるような少女の姿が、頭の中で真っ赤に染まる。

昔見た光景と重なり、ノエンは知らず拳を握っていた。

(っ……私は!)

出口のない迷路に迷い混んだように、ノエンは頭を押さえ、もがいていた。