「お前は動物の扱いに長けていると聞いた。だから、ある幻獣を調教してもらう」

小太りの男「団長」の後をついていき、最初に着いたのは、鉄で出来た檻が沢山置かれた部屋だった。

「この動物達は……?」

見たことの無い生き物に、ルルは目を瞬かせた。

「幻獣だ。エルフやカーバンクル、人魚などな」

人魚という言葉は、おとぎ話などて良く聞くが、それ以外は初めて聞いた。

「ライオンや虎はいないんですか?」

「ここは『幻獣サーカス』だからな。幻獣を見世物にするのがここのやり方だ」

見世物ということは、幻獣達がここでショーを行うのだろう。

そう言えば、団長以外の人を見掛けないと思った。

「あの、団長さん以外に人はいないんですか?」

「質問が多い娘だな。このサーカスは人間の代わりにエルフを使ってるんだ。人間を買うよりも安いからな」

エルフとは、人と同じような姿をした、高い知能を持つ妖精の一種だと団長は補足するように言った。

そして、奥へと進んでいくと、鉄で出来た重そうな扉があった。

扉の奥には、一際大きい檻があり、その中には、ライオンのような顔をした生き物が、息を潜めてこちらを伺っていた。

(……何、この生き物は)

ライオンのような顔と体、コウモリのような羽根、サソリのような太くて長い尾が生えた生き物。

ちらりと覗いた歯は鋭く、赤い体はまるで血を浴びたようだ。

「このサーカスで最も凶暴な幻獣―マンティコアの幼獣だ。毒針を抜いてあるが、こいつは言うことなど聞こうとしない。だから、処分するつもりだった」

「え?」

処分という言葉に、ルルは顔をあげる。

「だが、お前が来て気が変わった。ここには、幻獣使い―つまりは幻獣の調教師がいないからな。もしお前がこのマンティコアを服従させ、従わせることが出来き、尚且つショーに出せるように調教出来たらお前の願いを何でも一つ叶えてやる。ただし」

団長はそこでにやりと笑った。

ぞくりと、背筋が震える。

「失敗したら、お前はこいつの餌になる。つまり、命をかけなければいけないのだ」

団長の言葉に、ルルは暫く動けなかった。

成功したら何でも一つ願いが叶う。つまり、ここから出られることも可能だ。だが失敗したら殺されるのだ。

けれども、ルルは頷くことを選んだ。

「やる!私、この子の面倒をちゃんと見ます」

死にたくないという思いと、マンティコアの姿が、まるで自分と重なったからだ。

檻の中に入れられた自分と。