(俺の時と態度も違うし、イライラする)

勿論それは、リュートが棘の付いた言葉ばかりルルに投げ出すからなのだが、リュートは自分が間違ったことは言っていないと思い込んでいる。

それは、人間が彼に植え付けたもののせいなのだろうが。

(信じれば信じるほど、裏切られた時の傷がどれくらいのものかも、こいつは考えてないんだな)

目を閉じれば浮かぶ、赤い鮮血。鉄の匂いが充満した部屋で、半月のようにニッコリと笑顔を浮かべる人間達。

幼い手は刃物を握りしめながら、長い髪を掴んで、尖った耳を切り落とした男へと振りかざす。

だが、大人数に子供が勝てるはず無かった。

(……人間は、弱いから自分以外の強い生き物を恐れる。そして、幻獣を縛り付けることで、自分達が優位だと思い上がる)

この世界で最も優れていると、勘違いをしている馬鹿な生き物だと思った。

そんな生き物と同じ世界で生きているなど、ヘドが出るほど嫌だった。

身体中に走る電撃。肌を切り裂かれる感覚。

残酷なのは、この世で最も愚かなのは、人間だと。

だからリュートは人間を憎んだ。

それは、今も変わらない。

自分を道具にするだけでは飽きたらず、サーカスへと売り出し、見世物にされた恨みは、心の中にいつも渦巻いている。

だが、それでも最近は、少しだけ憎しみは和らいだ。

消すことは出来なくても、咄嗟の衝動で相手を殺そうと思わなくなった。

それは、間違いなく彼女の影響だろう。

気に入らないと思うこともあるし、親しくなれば、ちょっとしたことでイラッとする時もある。

けれども、居なくなってほしいかと聞かれたら、正直困るくらいには、リュートはルルを認めている。

(……お前が人間に生まれなければ良かったのにな)

自分と同じエルフなら、もっと彼女が賢かったら、きっとノエンなどに心を揺さぶられたりしなかっただろう。

「……コガネムシ」

「……」

今度は虫に例えてみたが、案の定聞こえてないため無視である。

(……なんか寒っ)

何故か悪寒のようなものを感じ、リュートは今度は小さく息を吐く。

「………………ルル」

「……」

初めて呼んだ名前にさえ、ルルはやはり反応を返さず、ノエンの芸をジッと見ていたのだった。