そして、ショー当日。

柱の影から会場を覗くと、金持ちの人間が沢山ひしめき合っていた。

ショーが始まるまで、ガヤガヤと談笑している。

ルルとラッドの出番は後半なので、他の幻獣達の演義が終わるまで待機していろと言われた。

ファンファーレの音が鳴り響くと、ビクッとルルの肩が跳ねる。

分かっていても、どうも心臓に悪い。ただでさえ緊張していて、心臓が飛び出そうなほど脈打っているのに。

側にいるラッドは、大人しく座っているが、ファンファーレの音でキョロキョロと辺りを見回している。

ルルは落ち着かせるようにラッドの背を撫で、足元に用意しておいたアコーディオンを見つめる。

指示を出すだけでなく、演奏者として自分も注目されるのかと思うと、足が震えそうだ。

だからと言って、出来ませんなど言えない。

ファンファーレが止むと、団長が舞台の上で両腕を広げている。

実に簡潔に挨拶を済ませると、指を鳴らした。

すると、人魚が引き出され、歌を歌う。

とても美しい歌声だが、胸の奥が締め付けられるような、悲しい気持ちになる。

人魚の言葉は、自分達とはまた違う。だから、歌の歌詞の意味は分からない。

だが、悲しみを表したような歌だということは分かった。

だが、暫く歌い続けていた人魚は、血を吐き出した。

「!」

喉を手で押さえながら、人魚はそれでも歌を止めない。

(どうしよう。あの子死んじゃう)

人魚はついにぐったりと前のめりになる。水槽のガラスを伝う赤い雫が、ポタポタと地面を彩る。

そんな人魚のことを、観客は笑いながら見ていた。

ルルは歪んだ笑みを浮かべている人々に、足が震える。

「どうやら、人魚の寿命がきたようですね」

団長はニッコリと笑いながら、また指を鳴らした。

すると、今度は斧を持ったエルフがやってきて、人魚の隣に立つ。

「それでは、役目を終えた人魚に、皆さん盛大な拍手を送ってください。私の合図と共に、人魚の首が落ちます」

人々ははち切れんばかりに拍手を送り始めた。

(……止めて)

「三……二……一……」

高く掲げられた手が振り下ろされる瞬間、ルルは走り出した。

だが―。

「……あ……」

容赦なく団長の手は下へと下ろされ、エルフの斧も人魚の首へと落とされた。

飛び散った血、最後にちらりと見えた瞳に浮かんでいた涙。

観客達の歓声が、どこか遠くに聞こえる。

「……い……や……」

ドクドクと心臓が身体中を叩くように鳴り響き、全身から嫌な汗が流れ落ちる。

次に、胸の奥から吐き気が沸き上がり、ルルは叫びたくなって口を開けた。

だが、ルルの声は口から漏れなかった。

「……叫ぶな」

いつの間にか背後にいたエルフの少年に、ルルは口を塞がれていた。

「お前もああなりたくないのなら、叫ぶな。……耐えろ。生きていたいのならな」

「……」

涙が頬を伝う。

痛い、気持ち悪い。そういう感情と共に、死への恐怖が膨れ上がる。

「あいつに同情してる暇があったら、ラッドと自分のことを考えろ。これからも、こう言うことはいくらでもある。だから、その度にそんな様では生き残れない」

言い終わると、少年はルルの口から手を離した。

「……」

息の仕方が分からなくなったように、ルルはパクパクと口を閉じたり開けたりしていた。

(……私も、使えなくなったら……死ぬの?)

あんな風に笑い者にされながら、首を落とされるのかと思うと、怖くて仕方ない。

(やだ……死にたくない、死にたくない!)

死への恐怖から、ルルは立ち上がって舞台を見た。

人魚の死骸はもう片付けられ、妖精達がショーをしている。

その光景を、ルルはどこか虚ろな目で見ていた。