「……うー」

ショーまで後僅かとなったある日、ルルはショーに出るための衣装をあれこれ着替えさせられていた。

このサーカスで数少ない女性のエルフは、無表情でルルの前に服を合わせていく。

他のエルフも会話を返してくれても、決して話が弾むわけではない。

事務的なものが多く、ルルは寂しさを感じていた。

そう考えると、まともに感情表現出来ているのは、エルフの少年くらいだ。

しかし、仲は良くないので、未だに彼の名前を呼ぶ気にはなれない。

「……これで良いですか?」

「えーと、お腹が出てないのが良いかな」

ここの気候はいつも暑いので、布は薄い素材の物が多いが、ルルはやたらお腹の出ている服は苦手だった。

お腹を冷やしてはいけないらしいし、何より太ったりしたら嫌でも目立つ。

団長みたいに、ズボンに出っ張ったお腹が乗っかるようにだけはなりたくない。

だが、ここに来てから、ルルはまともな食事など殆ど与えられてないにも等しいので、太りようがないが。

飢え死にしない程度には食事をもらえるが、味の薄いものが多くて、あまり食べた気にならない。

団長は、商品としての価値がある幻獣には、それなりに食事を与えるようにしているが。

「ご主人様には、なるべく派手なものをと言われております」

「……じゃあ、これでいい」

赤と黄色のチョッキと赤いスカート。お腹が出ているのは気になるが、ラッドの肌と同じ色なので、まぁいいかと納得することにした。

エルフや母みたいに綺麗だったら、もっと堂々と出来たのだが。

「では、私はこれで」

「うん、どうもありがとう!」

お礼を言って見送ると、ルルはラッドの元へ向かう。

途中通った幻獣の部屋で、何時ものようにエルフの少年から嫌味を言われ、ムカムカとしたが。

だが、ラッドの姿を見ると、そのムカムカは吹き飛んだ。

ラッドは人の言葉を話さないが、馬鹿にしたりはけしてしない。

だから、ラッドの前でルルはくるっとターンをした。

「これ、どうかな?やっぱり派手だよね」

派手な服でなければ、霞んでしまうのだから仕方がないが。

ラッドは意味が分かってないのか、檻に鼻先を擦り寄せている。

「……もうすぐだね」

ショーの日に、果たしてラッドと自分は上手く演義を出来るだろうか?

他の幻獣達と合わせようとしたが、ラッドはラッドで別に出てもらうと団長に言われ、ルルは結局、ラッドと幻獣達を一緒に遊ばせてあげることが出来なかった。

今、ラッドには自分だけ。そして、ルルにはラッドだけしか心を開ける相手が、笑顔を見せる相手がいないのだ。

その事が、少し胸に刺さるのを感じながら、ルルはラッドに抱き着いた。

檻越しから伝わるラッドの体温の温かさに、何故か泣きたくなる。

「……頑張ろうね。ラッド」

『ウォン』