「ラッド!飛んで!」

火の輪くぐりをしたラッドに、ルルは拍手を送る。

どうやら、火を恐れるようなことも無いようだ。

それに、ルルの言葉を理解しているように、ラッドはルルに従順だった。

ルルはそれを嬉しく思うよりも、不思議に思った。

自分とは全く別の姿だと言うのに、まるで人間とあまり変わらない。

そんな風に思ってしまうくらい、ラッドは賢かった。

賢いというよりは、人の感情に恐ろしいほど敏感なだけなのだろうが。

「ラッド凄い!偉いね!」

沢山褒めて撫でると、ラッドは喉を鳴らして顔を擦り寄せた。

そんなルル達の様子に、団長は一人ほくそ笑んでいた。

彼にとっては、幻獣もルルも商品に過ぎない。

そして、このサーカスは金持ちの人間が楽しむための所だ。

この国では、幻獣と呼ばれる生き物を飼育したり、売ったりするのは犯罪だった。

だが、貴族の中には、幻獣をまるで他の猛獣のように、見世物にすることを楽しんでいる人間もいる。

そして、このサーカスは、そう言う人間によって作られたと言っても良い。

(そろそろ、人魚の方も使えなくなってきたし、せっかくだ、どこかの貴族に売るか)

使えない物は容赦なく切り捨て、自身の欲望を満たすために、利用できるものは利用する。

それが、彼のやり方だった。

(所詮、この地上で最も優れている人間に飼われることでしか、奴等は生きられないんだ)

龍と人が仲良く暮らしている国など、所詮はおとぎ話の中の話。

人と人が争いあうのが、今では普通だ。

弱者は欲望の犠牲となるために、優劣をつけるために存在しているに過ぎない。

それは、幻獣でも同じこと。

それにしてもと、団長はルルを見る。

人間の幻獣使いも必要だとは確かに思ったが、最初はルルを買うつもりは無かった。

だが、ルルの母親は、ルルは動物の扱いに最も長けていると言っていた。

信じていたわけではなかった。だが、使える可能性があるのならば、使ってやろうかと思った。

それに、どうにか出来ずともルルが餌になれば、餌代が浮く。

本当に、それだけの価値しか、ルルには感じていなかった。

だが、ルルは団長の予想よりも早くマンティコアを手懐けてしまった。

(ま、あの幼獣が舞台に上がるなら、観客も喜ぶだろうよ)

一人にやっと笑みを浮かべると、団長は一緒に連れてきていたエルフの少年を見下ろした。

「次のショーで、前のような失敗をしてみろ。エルフの解体ショーでお前を出品してやる。だから、せいぜいワタシを失望させないようにしろよ。リュート」

「……肝に命じております」

淡々とした返しに、団長はつまらなそうに鼻を鳴らしていた。