ちょっと待ってくださいよ……いきなりそんな花形の仕事を任される自信はないですって!

唖然としていると、社長はなぜ私を選んだのかを話し始める。


「得意先の事情を詳しく知ってるだけじゃなく、重要なことを瞬時に、的確に思い出せる能力を埋もれさせておくのはもったいない。会食にも慣れているようだし、どうせ営業以外にも雑用をやらされてきたんだろうし、その経験は必ず役立つ」


確かに、これまで営業に留まらず事務仕事、クレーム対応にその他雑用、いろいろなことをやらされてきた。

けれども、さすがにボスの側近になった経験はないのだ、簡単には頷けない。


「ですが、今までやっていた仕事が秘書業務とは違いすぎるので、私に務まるかどうか……」

「ブラックな会社に命令された無理難題を全部こなして、我慢して働いてきたんだろ? それができて、秘書ができないわけがない。自分では気づいていないかもしれないが、それだけの力があるんだよ、有咲には」


凛とした声で語りかけられたその言葉は、なぜだかすうっと心の奥に届く。

……本当に不思議だな、この不破雪成という人は。

四年も会っていなくて、当時のことを覚えてすらいないだろうに、まるで私の仕事ぶりをずっと見ていたかのように自信を与えてくれる。しかも、たったひとことで。