名残惜しさを感じているのは私のほうだと自覚しつつ、ぺこりと頭を下げて今度こそ車を降りた。

私が部屋に入るまで見守っててくれるらしく、車は停まったまま。三階の外廊下からそれを見下ろし、彼の気遣いに感謝してドアに向き直った。

中の明かりがついているから、桃花は起きているだろう。ここからは気持ちを切り替えなくては。

ひとつ深呼吸して、ドアの鍵を開けた。


「ただいま」


いつもと同じ調子で声をかけてパンプスを脱いでいると、バタバタと足音が近づいてくる。リビングに繋がるドアが勢いよく開けられ、今にも泣きそうな顔をする桃花が現れた。


「麗! よかった、帰ってきてくれて……!」

「ごめん、待ってた?」

「当たり前じゃん! 麗に嫌な思いさせちゃったなとか、嫌われたらどうしようとか考えてたら、寝れるわけないよ」


肩を落とす彼女からは、不安でいっぱいだったのであろうことが見て取れる。不破さんの言う通り、私と同じ気持ちでいてくれたことにホッとしながら、しっかりと向き合う。


「桃花の話、ちゃんと聞きます」

「私も、ちゃんと話します」


お互いに改まって頭を下げ、顔を見合わせた私たちは、ふっと笑みをこぼした。それだけで、わだかまりが少し薄れた気がした。