しかし、それを差し出した瞬間、鍵ではなく手を取られて目を丸くする。


「誰が帰すか」

「は？」


ぶっきらぼうに放たれたひとことに、思わず間抜けな声を返してしまった。握られた手も熱くて、再び鼓動が速まる。


「お前も飯まだだろ。一緒に食ってけ」

「でも……」

「せっかく作ってくれた飯、ひとりよりふたりで食べたほうが美味いに決まってる」


当然だという口調で言われ、胸の奥がほんわかと温かくなる。

あぁ、この人はきっと、根はとても温情深い人なんだ。そう、なんとなく思った。

遠慮の言葉を出せずにいると、彼は鍵を持った私の手をそっと胸に押し戻す。


「これも、お前が持ってて」


その意味は、単にこれからも自分が不在のときに家のことをやってほしいからなのだろう。それでも、他の誰よりも彼に近い存在になれたようで、どうしても嬉しさを隠せない。

口元を緩ませ、素直に「はい」と頷く私に、不破さんもふわりと笑みを浮かべた。


それから、ふたりでテーブルにつき、不破さんのために作った料理を分け合って食べた。彼の言った通り、自分が作った料理がいつになく美味しく感じる。

彼が「美味い」と言ってくれたのが、ふたりで食べているせいだとしても幸せに思う。

こんな気持ちを味わえるなら、彼に付き合わされるのも大歓迎だ。