だが、この時間帯は山頂まで行くにはあまりに遅すぎる。

 
 辺りが真っ暗で、辛うじて小さな明かりが一つ点いていて、僕たちはそれを頼りに、何とか佇んでいられた。

 
 不意に早紀が、


「キス……しよう」
 

 と間を伸ばしたような口調で言う。


「ああ」


「その言葉、待ってたわ」
 

 早紀がそう言い、僕の頭を掴んで自分の唇を僕のそれにそっと重ね合わせ、ゆっくりとキスした。


「……」


 互いに無言のまま、口付け合う。


 こういった場合、時間はまるで惜しくない。


 むしろ、僕の場合たまにはこういった時間も欲しかった。