ら始まった。


 ほんの三時間ちょっと前まで、僕たちは互いの住むアパートにいたのだ。


 僕が早紀に掛ける朝の目覚ましの電話は、大抵午前七時半前後で、その日もその通りだった。


 僕が自宅にあるケータイの充電器から電話を手に取り、フリップを開いて、電話帳に登録していた早紀の番号を呼び出し、発信した。


 ピルルルル、ピルルルル……。


 数度呼び出し音が鳴った後、「はーい」という、いかにも眠そうな早紀の声が聞こえてきた。


 受話器越しに眠たげに彼女が言う。


「まだ早いよ」


 ――そんなこと言ってられねえぞ。今日はあいつの授業があるからな。いつも授業が始まる前に出席取る哲学概論の岩島。


「あ、そうだった」


 一転、早紀はまるでアドレナリンが注入されたように、一気に目が覚めたらしい。