FIN
 僕は彰との約束通り、翌年二〇〇九年の八月に近くの海に行った。


 普段から滅多に車を運転しないのだが、その日だけは気合を入れて、車を出す。


 僕の住んでいる町から北に一キロほど行ったところに海があって、青い海原(うなばら)が見える。


 夏だからか、ビーチには多数の客がいて、賑わっていた。


 どのカップルも楽しそうにしていたし、中には子連れもいる。


 僕は賑やかなビーチをあえて避け、反対側にある、潜(もぐ)ると白いサンゴ礁が見えるぐらい澄んだ綺麗な場所で、例のものを撒く準備をした。


 早紀が短い人生でこの世に残した、たった一つのものだ。


 胸にしっかりと手を当てて考える。


“早紀、君は今から天へと飛び立つんだよ”


 僕はそう思い、ビンの蓋を開けた。
 

 中には言わずもがなで白い骨が入っていて、僕はそれを手に取りながら、まずは掌(てのひら)で感触を味わってみる。