「いえ、そのほうが正確なものができると思うし。ね、森さん、ここまできたら、あとはちょろいもんですよね?」

「なによ、四方、人使い荒いわね。あとでフランス料理おごりなさいよ」

「おお、いーですね、フランス料理。ハトハトベーカリーのフランスパン、とってもおいしいですよ?」

「ううっ、寒いわ」

わたしはあわてた。

「そんな。後日、どこかおいしいお店でごちそうしますから」

「いいのよ、気を使わなくて。四方ちゃんのためならエンヤコラだわさ」

「はあ……」

わたしがあっけに取られている間にも、森さんは超スピードでキーボードをたたき続ける。

「じゃあ、オレ、そろそろいいかな?」

と、成宮課長が立ち上がった。

「あ、すみません。今日はありがとうございました」

「うん。オレ、もう1時間くらい席にいるんで、もしわからないことがあったら、電話ください。それと、できあがったマニュアルのデータ、社内メールで送っておいて」

「はい。できあがりしだい」

「じゃ」

成宮課長が退席するのを、廊下まで出て見送った。