「営業さんが締切りを間違えたのは確かだろう。それについてはひと言言いたいでしょう。でも、お客様はなにも悪くない。ハマナカ工業とお客様の間では、21日土曜日にマニュアルをお渡しする、という約束を交わしている。お客様の立場ではそういうことではないかね。ここは、お客様のことを第一に考えて、矛を収めてくれないか。ね? ね?」

言いながら、両手を合わせて拝み倒すしぐさを見せる。

わたしは神様か。

むかっ腹は立ったが、結局はこちらが折れ、徹夜してでもマニュアルを仕上げるという約束をさせられた。

諸橋氏はひと言の謝罪もなく、「お願いします」の言葉もなく、フンッ、と鼻を鳴らして去っていった。

「あれは営業でもちょっと問題になっている社員なんだ。向こうの課長には、ぼくからよく言っておくから」

などと、小湊課長は調子のいいことを言う。

本当に「よく言って」おいてくれるのかしら?