「エレイン様を、殺すのだ」

「……え?」

ある日、私はサザリナ様から、エレイン様を殺すように命じられた。

「……何故……ですか?」

「エレイン様が、将来神龍様を殺してしまう未来が見えたのだ。これも国のため」

サザリナ様は、過剰なほどに神龍様を崇拝していた。

神龍様がいくら神に等しい扱いを受けていても、あの方もまた「生き物」だと言うことを、分かってくださらない。

「いいか、ティアニカ。お前はやがて私の後を継ぎ、この国の占い師となる者。ならば、情に流されてはいけない」

「…………はい」


けれども、私はエレイン様を殺せなかった。

あまりにも優しく、清らかな心を持った彼女を殺してしまえば、この国は本当に滅んでしまう気がした。

神龍様を真に救い、この国の未来を切り開いてくださるのはエレイン様だと、そう思った。

だから、私はエレイン様を連れて、城から逃げることにした。

その前に、幻惑の魔法使いであるレオンと、エレイン様の記憶と、エレイン様に関わった全ての人の記憶を封じて貰う契約を交わした。

その代償として、私はエレイン様が十二才の誕生日を迎えた日に、死ぬ運命を背負うこと。

私は、躊躇いはしなかった。エレイン様を守ろうと決めたのだから。