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「何はともあれ、上手い具合にコトが進んで一安心だよ、はあぁ……」

 2日間の学祭が無事に終了した。後片付けをやっておくからとクラスを追い出されたのはいいけど、これからどうしたもんかなぁ?

 校舎の外から他の生徒がせわしなく動くさまを、邪魔にならないところからぼんやりと見ていた。

「あ、メガネをかけてくるの忘れた。まぁいいか……。これだけ騒がしいと、霊もどこかに隠れてしまうだろう」

 身の置き場がなくて、そこを立ち去ろうとしたそのとき――。

『お前がほしい……。こっちに来い……』

 少しだけ掠れたような、男の声が耳に入ってきた。

「おいおい、男に欲しがられても、すっげぇ困るんですけど。――って言ってる場合じゃないか」

 キョロキョロ辺りを見渡して、霊が放っているであろうエネルギーを探してみる。

「う~ん。ヤバそうな感じが、弓道部の部室辺りからだだ漏れしてる?」

 イヤだなぁと思いながら歩いて行くと、声がどんどん大きくなってきた。

『こっちだ……。僕を解放してくれ――』

 解放してくれって、地縛霊の類かな? 解放できなかったら、母さんをここに連れて来るしかない。縛られているモノを中途半端に引き離したりしたら、今度は俺が縛られることが目に見える。

「ちゃんとした力さえあればなぁ。マジで口惜しい」

 霊がいるであろう場所に到達したとき、弓道部の部室近くにそびえている木が、風もないのにキリキリと音を立てた。

「どなたか、いらっしゃるのですか~?」

 我ながら毎度の如く、霊とのコンタクトの仕方が分からないという。いきなり挨拶からするのも、可笑しいだろうし。

 漂ってくる霊からの強いエネルギーを感じながら、音をたてている木に近づくと――。

(やぁ! 来てくれて嬉しいよ)

 同じ制服を着た男子学生が、真っ赤な鎖で木に縛りつけられていた。

 何でこんな風に、こんな場所へ縛りつけられたんだろう? まるで悪いことをしたから、食い込むくらいにキツく繋ぎとめられているみたいだ。

 恐々と顔を近づけて、鎖をしげしげ眺めていたら、突然笑い出す男子学生の幽霊。

(君、すごい力を持っているね。その力を使ってぜひとも、この鎖を断ち切ってほしいんだけど。今すぐに)

「今すぐにって言われても……」

 右手親指と人差し指を使って、恐るおそる鎖を摘んでみた。赤く光り輝くそれは熱くもなく冷たくもないけど、見た目以上に頑丈そうだ。

(僕の名前は、風見博仁(かざみ ひろひと) 君は?)

 自分から積極的に名乗ってくれる幽霊なんて、こんなのはじめてだ。違和感ありまくりだな。

「……俺は三神優斗です。あのさっき言ってた、お前がほしいって、一体……」

(ああ、それね。よくここに来る男子生徒が、男同士でイチャイチャしてるものだから。そう言えば、やって来るかなぁと思ってさ)

 ――思われても困る。しかも、のこのこ現れた俺って……。

「俺は、可愛くて優しい女子が好きです! ここに来たのはたまたまっていうか、君の気配を感じたから来たっていうか」

(君は僕と同じ、サイキッカーなの?)

 その言葉に眉根を寄せた。もしかしてコイツ、弄っちゃいけない霊と対峙して見事に失敗し、ここに縛りつけられたんじゃないだろうか?

(その赤い瞳といい、光り輝くようなオーラといい。まるで純粋培養されたサイキッカーみたいだ)

「純粋培養って、そんな……」

 母さんからは質のいい浄霊をしなさいと、言いつけられているだけなのに。