タイムマシンはいらない。




また部長に残業でもさせられていたんだろうか。出来上がっている私とは違い、岸本はシラフでおそらく仕事帰り。


「ひとりで飲んでたんですか?フラフラじゃないですか」

おぼつかない私の足元を心配するように、岸本は手を差し出してきた。


「はは、平気だって~」

自分がどんなテンションなのか分からないけれど、知り合いに暗い顔は見せたくなかった。ましてや後輩の岸本なんかに。


「平気じゃないでしょ、全然歩けてませんよ」

「は?歩けてるから、ほら」と、足を一歩出した瞬間に、身体がぐらぐらして、そのまま岸本に支えられた。


「実咲さん、飲み過ぎです」

そう言って力強く腕を掴まれて、岸本の手が思いのほか熱くて大きいだなんて考えている私は、やっぱり飲み過ぎたらしい。


そういえば、あの人の手も大きかったな。

指が長くて、ほんのりと血管が浮き出ていて、人差し指の甲の下に小さなホクロがあって。

もうひとつペンでホクロを描いて、目があるなんてふざけたこともあったな。

お前こそ、ここにホクロあるだろって、首の後ろをくすぐられて、じゃれ合った。

そんな日々が、全部無駄だった。


私がいないとダメな人だって決めつけて、

彼がいないとダメになったのは私のほうだったのに。

そんなことも言えないまま、あの人はもう別の人生を歩んでる。



「……う……」

「み、実咲さんっ」

急に込み上げてきた気持ち悪さを押さえられずに、私はその場にしゃがみこむ。

岸本に背中を擦られながら、私はそのままぷつりと意識を失った。