タイムマシンはいらない。




「朝ごはんでも買いに行きます?まだ出勤時間まで余裕ありますし、俺美味しいパン屋さん知ってます」

男らしかった岸本は、すでに可愛い岸本に戻っていて、髪の毛には子供みたいな寝癖がついていた。


どうして、こういう時、男のほうが切り替えが早いんだろう。

私はまだドキドキしてるっていうのに、岸本は普通の顔をして、眼鏡からコンタクトに変えていた。


覚えてないのは岸本のほうじゃないの、なんて思いながらも、「早く買いにいくよ」と私は先に部屋のドアノブに手を伸ばす。


すると、ふわりと後ろから抱きしめられて、また岸本の心地いい匂い。


「実咲さん、好きです」

痛いくらい、ぎゅっとされた。


「大好きです」

「昨日、10回以上聞いた」

「返事は?」


岸本は後輩だ。恋愛対象にはならないし、考えたこともなかった。

けれど、なにかがはじまる予感はしてる。

ううん、もうきっとはじまっている。


だから、タイムマシンはいらない。

過去にも未来にもいけないのなら、大切なのは今。

この胸のときめきも、この沸き上がってくる愛しさも、紛れもない本物だ。


私の肩に顔を埋めるようにしている岸本の髪の毛に触れる。


私は言葉で返事をしない代わりに、そっと甘えるようにキスをした。



《タイムマシンはいらない。END》