「ごめん、私……」
あんな最低なヤツに未練なんてない。
けれど、タイムマシンがあればと思う。
そしたら私はもっとちゃんとやる。
お母さんみたいに世話を焼いたりしないで女に見られるように甘えたり、相談したり。頼りにされるより、頼りにする。そんな可愛げがある人になる。だから……。
「実咲さん、過去には戻れませんよ」
涙を拭く私の手を岸本が止めた。
きっと岸本は分かっていた。
完璧主義の私が歩けなくなるまでのお酒を飲んでいた理由も。
振ったと、嘘をついていることも。
なにかに傷ついていることも。
強がることに限界がきてることも。
捨てられたくせに、楽しかった日々に戻りたいと思ってることも、すべて岸本は見透かしていた。
「じゃあ、どこにならいけるの……っ?」
未来なんて、安いっぽい言葉は言わないで。
先のことなんて、全然見えないし、真っ暗だし、未来ほど怖いものはない。
「今なら、すぐにここにあるでしょ」
岸本はまた力加減の知らない手で、私のことを抱き寄せて、そのまま優しいキスをした。
ドクン、ドクン、と鼓動がうるさいのは岸本のほう。
「実咲さん、ずっと好きでした。もうバカな男のことは忘れて俺を選んでください」
可愛い岸本が、可愛くない声で、可愛いなんて言えないような顔で、私のことを見つめていた。



