「……ツンデレ?」

 ――まただ。

 また、胸の奥がモヤモヤしやがる。

「吉川が、可愛いお姫様? いまいちパッとしない町娘の方が適役なんじゃないですかね」
「遊び半分であの子に近づいてみなさい。火傷するから」

 なんなんだよ。さっきからズケズケと。

「君、素材はいい」
「それは褒められてるんスかね」
「もちろん。美しさは武器になる。私がそうしているように」

 ……たいした自信だな。

「本当に、綺麗なライン」顔や身体にベタベタ触れてきやがる。美術品を見るような目で観察されて、いい気はしない。だけど不思議と嫌な気もしなかった。

「黙っちゃって。可愛いな」

 俺だからいいものを。免疫のない同年代男子が美人からこんな風に煽られたら勘違いの恋でも始まっちまいそうだ。

「誘ってるんですか」
「だったらどうする?」

「どうするもなにも……いっぺん抱いてみたいですかね」と答えた瞬間、吉川の顔が頭によぎった。

 部長に手を出すな、と真っ赤な顔して怒ってやがる。はは、出すかよ。冗談だよ。部長も本気で誘ってるわけねぇし。つーか俺の頭の中にいちいち出てくんなバーカ。

「気が向いたら遊んであげよう」

 勝手に言っとけババア、なんて声に出したら張り倒されそうだからやめておく。

「よろしく」
「こちらこそ。まぁそれなりに使えると思いますよ。器用な方なので」
「君が器用? あはは」

 なんでそこで笑うんだよ。吉川はこの女のこと“素敵な先輩”とでも思っていそうだが、ひょっとしたら俺以上に腹黒いんじゃねぇの。

 しかし、ここが、吉川の居場所なのか。

 演劇部と聞いて、勝手ながらに壁一面に鏡があるような稽古部屋を想像していたが、普段授業で使う教室よりは広い普通の教室だった。

机も椅子も教室にあるものと変わらず、数は少ない。あちこちに無数にダンボールが置いてあるので少々圧迫されているようにも感じ、それをどければより広い部屋になるのは間違いない。ダンボールの中には昔使った衣装や小道具なんかが入っていたりするのだろうか。

「それで、ナイキ。いや、内藤。指導はビシバシやってかまわない?」
「……お手柔らかにお願いします」