部室に着くと、まだ誰も来ていなかった。
「広いですね」
「立ち稽古もここでやるし、学祭前には大道具なんかを保管しておきたいから。広さは重要だな。意外?」
「はい。部員が少ないと伺っていたので」
なんだか二人、良い感じにお喋りしているし……。
「今は減ってしまったけどさ。盛んに活動してたときはこの部屋じゃ狭いくらいだったらしいんだ」
「そうなんですね」
いい? ナイキくん。
いっちゃんは私の部の先輩。
私の幼なじみ!
演劇部に入部希望でもなければ幼なじみでもないナイキくんがいっちゃんを独占するなんて――
「きりとは、同じクラス?」
「いえ。吉川さんは、僕の友達の友達です」
なにそれっぽい理由を勝手につけてるの。
打ち合わせもなにもしてないのにサラッと嘘つけちゃうんだね。
その設定を覚えておく私の身にもなってくれるかなぁ。
私は内藤くんの友達の友達――と。
頭の中に、今生まれたばかりの関係図をメモしておく。
「きりー、言えよ。こんな逸材がいるなら勿体ぶることなかったんじゃね?」
だからそういうんじゃないんだって、いっちゃん。
私はこの事態を呑み込めていないのだ。
「僕は芝居のことはなにもわからない初心者ですから。お手柔らかに」
“いい子のナイトウくん”を演じきっているナイキくんは、あまりにも自然すぎて、不自然にさえ感じた。
まるで取り繕った方のナイキくんが普段のナイキくんみたい。
そんなわけないのに。
なんだろう、この違和感。
「初心者歓迎だよな? きり」
「へ?……うん、大歓迎」
ただし、やる気あるならね!
「遅いな、他の部員。俺ちょっと見てくる。内藤くんにはきりから色々説明しておいて」
「へ?」
「よろしく」
部室から出て行く、いっちゃん。
……なんでナイキくんと二人きりにならなきゃならないの。


