「本当に、大きくなったわね」

 そう思うならもっと俺に好きに動かせろよ。

「見惚れちゃう」

 なぁ。

 ――アンタにとって俺ってなに?

 俺はいつかアンタに身も心も貪られてしまうかもしれない。そうなったとき俺の人生は最初からそうなる運命だったのだと悟る以外になにかできるのだろうか。

「あんまり長居しちゃお勉強できないわね。頑張ってね」

 部屋から出ていく母さんの背中を見て呪いでもかけたくなる。

 ……消えろ、なんてことは言わねぇからさ。俺があとかたもなく消えてしまえたらいいのにな。だけどそしたらアンタは生きていけないんだろう?

 だったら生きるしかねぇじゃねーか。

「……クソ野郎」

 そんな独り言にさえ、

『こら、たっくん! そんな言葉づかいしちゃいけません』

 ――幻聴が聞こえてきそうな気がした。