――遊ばれていたわけじゃなかった
「俺のこと本当に好きだった?」
俺の言葉に頭を縦に降る、杏。
「……今は?」
黙り込んだ杏は、しばらくして、こう答えた。
「これからも応援してる。君は頑張り屋だから。無理しすぎないか心配だなぁ。でも、いい社長さんに拾ってもらったみたいで安心した」
社長と俺の出会いは雑誌のインタビューで一度答えたことがある。
杏はその記事を読んだのか?
俺の活躍を見守ってくれていたのか……?
「……はは」
誰かに一生、愛されることなんてないと思っていた。
悲劇のヒーローごっこもいいとこだ。
俺はこんなにも恵まれていたのに。
見えていなかった。
杏は俺の未来を守るために学校から去ったんだ。
「ねえ。予約していいかな」
「……え」
ちょうどいい。
舞台で着ていた白いタキシードを身に纏っているのは好都合だ。
「大人になったら迎えに行く」
杏の左手を掴み、薬指にキスした。
我ながらキザだと思う。
でも杏の頬が赤く染まっていくのでやって良かった。
「その頃には。おばさんだよ?」
杏の声が、震えている。
「そんなことないし。たとえそうだとしても。約束したろ、出世払いするって」


