俺の前にやってきたのは、

「久しぶり。西条くん」

 あの日、俺の前から消えた女だった。

「……なんで」
「活躍、ずっと陰ながら応援してた」

 どうして今になって現れた?

「俺のこと捨てたクセに」

 そうつぶやいて、ハッとする。

 顔をあげると、(あん)が悲しげに微笑んでいた。

「嫌われて当然のことしたと思ってる。会いに来る資格ないし、迷惑だとも思った」

 黙れ

「だけど君の劇がどうしても見たくなって」

 黙れ

「君の元気そうな姿がひと目見れたらと思って。元気そうでよかった。……もう行くね」
「――来い」

 杉田に「そこ見張ってろ」と頼み控室に杏と入る。

 中には誰もいない。 

「資格がない? 迷惑だ? そんなの当たり前だ」
「ごめんね」

 腰まで伸びていた茶色い髪は、肩にもつかないくらいの短さの黒髪に変わっていた。

「謝るくらいなら来るな」
「声かけるかギリギリまで迷った。本当はかけないのが、大人なんだと思う。だけど。もう嘘、つきたくなくて」
「……嘘?」
「君のこと、たしかに好きだった」