うちにいると、息が詰まる。

 苦しくてどこかへ逃げ出したくなる。

 ――だけど俺は、この家から逃げることなんてできない。

「あと三年か。なげぇな」

 大学生になったらこの家を出て大学の寮で暮らしたい。

 もちろんそんなことを許してもらえる可能性なんて低いが、それを希望に俺は今日を生き抜く。

『サヨナラ』

「……なにがサヨナラだ。吉川のやつ」

 こんなに心をかき乱されたのは久しぶりだった。

「まだ俺の心は生きていたんだな」

 面倒な感情は捨てたつもりだったのに。

 いちいち俺の発言にマジになってさ。

 演劇が青春そのものだとか。

 そんなに力説するほど夢中になれるものなのかよ。

 ――わからない

 俺はこれまで、やりたいことなんて見つけたことがないから。

 見つけたとして、やらせてもらえない。

 ……イライラする。

「助けてやったのに生意気な女」

 助けるんじゃなかった。

 あんなやつ。 

 ボロボロにさせて泣かせておけばよかった、とそう頭では考えるのに。

 俺に向かって怒った吉川の顔がチラついて、わけがわからないくらいムカムカした。

「クソっ……!」

 モノに当たってしまいそうになるが、寸前で思いとどまる。

 大きな物音なんて出せば、母さんが普通じゃいられなくなる。

 いいや。

 あの女は、元から普通ではないが。