嘘つきピエロは息をしていない



「金輪際つけまわすなよ、ストーカー野郎」
「そんな言い方やめてよ! 私はただ、ナイキくんに――」
「俺の寝込みを襲おうとしたり、放課後あとつけたりして、立派な犯罪行為だからな?」

 勘違いしておられる!!

「あの、これには、理由があって」
「どうせ俺のこと好きとか言うんだろ。そういうのマジで勘弁してくれ」

 いやいやいや。

 それは早とちりしすぎというものだよ!

「西条がダメだったから、俺って魂胆か?」
「それは……」
「やっぱりそうか。男に顔で惚れるの、やめておいた方がいいと思うけど」

 たしかに西条くんのことも狙っていたし、あなたのことも狙っているけど、意味を取り違えているよね!?

「西条くんは、もういいの」
「あっそ」
「ナイキくんが欲しい」
「……ハァ?」
「あっ、でも。私は、ナイキくんのこと、けっして性的な目で見ていません!」

 こっちを見向きもしなかったナイキくんが、目を見開いて私を見下ろしてくる。

「なんつった?」
「私は、ナイキくんの才能を買いたいんです」

 さっきの“蹴り”、見事だった。

 無駄一つない、静かで切れのある動きをみて確信した。

 きっとナイキくんは武道の経験者だ。

 それならアクションシーンもクオリティの高さが期待できる。

 オーラも即戦力もある。

 こんな人、あの学校に他にいないよ。 

 ううん、もう二度と出会えるかもわからない。

 あなたが、どんなお芝居をするか見てみたい。

「なんの話? つーか、さっき襲われたと思えないくらいピンピンしてんなお前――」
「演劇部に入って!」
「……なんだと?」
「演劇部だよ! お芝居をする部活!!」

 すると、ナイキくんが、眉間にシワをよせた。

「俺が? なんのために?」
「うちの部には、あなたみたいな人が必要なの。ううん、ナイキくんが欲しいの。力を……貸して欲しいの」
「…………」
「一生のお願い! まずは見学だけでも――」
「行くぞ」

 ――え?

「もう黙ってろ。俺には吉川のその話、どうでもいいから」