丸眼鏡くんと二人、賑やかな通りまで戻ってくる。
「家、どっち」
「へ?」
「送ってってやるよ」
「え!? いいよ、悪いよ! それより、助けてくれてありがとうございました!」
「俺をつけてた人間の台詞とは思えねぇな」
「ウッ……」
やっぱりバレていたんだね。
「さっきのやつらの仲間にでもつけられてたら、厄介だろ」ポケットから取り出した丸眼鏡を装着しながらつぶやく。
「丸眼鏡くん」
「その呼び方どうかと思うわ」
「でも、名前教えてもらってないし」
丸眼鏡だから丸男(まるお)くん!
……なんて安直なニックネームが頭をよぎったが、口に出すとただでさえ不機嫌な王子様が更にへそを曲げる予感しかしないので、喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
「聞かれてもねーけどな」
それもそうだね。
「なんていうの?」
「お前から名乗れ、グズ女」
「え?」
「え、じゃねーよ。トロいからトロ子か?」
「失礼な……! 吉川です。吉川きり」
「チーズみたいな名前だな」
「よ、よく言われます。あと、林間学校で霧が発生したとき男子から『うわー、吉川が大量発生してる〜』とかも言われたことあります」
「知るか。どうでもいいわ」
「それで、あなたは?」
「名前も知らずに追いかけてくんなよ」
「気になったので追いかけずにはいられませんでした!」
昼休みに見かけてから、頭から、離れなかった。
一秒でもはやく、あなたと話がしたかった。
「直球なヤツ」
「教えてくれないの? 私は名乗ったのに?」
「内貴」
「え?」
「二度は言わねぇよ」
ナイキくん。
って、初めて出会ったなぁ。
どんな字なんだろう。
「靴みたい」
「それ絶対言われるやつ」
なんだかんだ話せていることが嬉しい。
ひょっとして、少しずつ仲良くなれてるんじゃない?