嘘つきピエロは息をしていない



 丸眼鏡くんが、丸眼鏡を外し、ポケットへと直した。

「正直お前みたいな女、微塵も興味ないし。関わりたくないし。いっぺん痛い目見ろって思うわ」

 えぇ!?

「でもな。どういうわけか、胸くそわりぃんだよ。お前がコイツらに襲われでもしたらって考えると」

「誰だお前……! コイツに何したんだよ!?」

 茶パツが私を離し、倒れた金髪に駆け寄る。

「あー、そいつのことなら心配すんな。気絶してるだけだ」
「よくもやりやがったな!」
「うるせぇ。同じ目にあいたくなけりゃ静かにしてろ。ほら、行くぞ」
「へっ?」
「来ないなら置いてくけど」
「い、行きます!」

 ――守ってくれたの?

「っ、クソッ!」

 ――!?

 茶パツが、背を向けた丸眼鏡くんに向かって、突撃しようとしている。

 ――手には、小型ナイフ。

 その切れ味は定かではないが、場所によっては致命傷さえ与えられるだろう。

「危ない! 避けて――」

 丸眼鏡くんが刺されちゃう……!!

「バカは眠ってろ」

 振り返り、丸眼鏡くんがナイフを蹴り落とした。

「くっ……」

 顔を歪める茶パツ。一方、気だるげな雰囲気を醸し出している、丸眼鏡くん。

「物騒なもん持ってんじゃねーよ」

 ドス、と再び鈍い音が響いたと同時に、茶パツが膝から崩れ落ち、床に這いつくばる。

 丸眼鏡くんに、殴られたのだ。

「この続きは武器ナシでやろうぜ」

 茶パツの後頭部に年季の入ったスニーカーを乗せ、踏みつける。

 いくらなんでもやりすぎだと思う。

 止めなきゃ――って思うのに、声が出ない。

 まるで目の前にスクリーンがあって、映画を見ているみたい。

 いいや、ここは客席で。

 丸眼鏡くんのいるそこが舞台のようで。

 本当に、目が離せない。

「見逃して……下さい」
「学生証」
「え?」
「出せよ。そして二度とそのツラ見せんな」