――君はバカだ

 後先考えずに吉川を救いに来た。

 吉川が、好きだから。

 女の為にあんな風になるなんてバカバカしい。

 それでも、痛いくらいに内貴の気持ちが理解できたとき、心地いい笑いがこみ上げてきた。

 スマホをタップして、一通のメッセージを送信する。

【あれ、その噂。俺は同姓同名の別人らしいって聞いたけどね】

 すると、

【西条くんだ!!】

【グループメッセに参加するの珍しいね!?】

【あー!撮影の合間とか?】

【なんだー。別人か。まあウチキに武勇伝なんてあるわけないよねぇ】

 嘘みたいに話の流れが変わった。

「さすが俺」

 スマホの電源を落とし、ソファに投げ、立ち上がる。

 こんなもので借りが返せたとは思えないけどさ。

 少しは時間稼ぎになるんじゃないの。

 窓の前に立ち、街を見下ろす。

 ビルや店や車の明かりが、あと一時間もすればキラキラと輝き始める。

 この景色を見るたびに俺はちっぽけな存在だと思い知らされる。

 この景色をから目を背けたくなっていたのに、もっと高いところから眺めたいと。

 今そう思えるのは紛れもなくあの子のおかげだ。