――迷っている暇はない。
俺は吉川を抱え、その場を離れた。次の瞬間。高嶋が、ぶっ飛ばされた。
嘘だろ……? 体格はどう考えても高嶋の方がいい。そんな高嶋をいとも簡単に蹴り飛ばした。
「へぇ。強いんだね、キミ」
榊の顔が引きつる。さすがに今の蹴りを見て動揺したらしい。
「自分の身は自分で守れるようになれって言われてよ。あの頃はイヤイヤ稽古してたってのに。こうやって誰かを守るために使える日が来るなら習い事もしてみるモンだな」
習い事……?
「俺はなぁ。そこの眠り姫曰く、ヒーローはヒーローでも、ダークヒーローが似合うんだとよ。つーわけでお前も無傷で済むと思うなよ?」
「待って。いいよ。もう、きりちゃんのことは諦めるから。連れて帰りなよ」
プライドの高い榊が、簡単に折れた。そうせざるを得ない圧倒的な力の差と、圧倒的存在感。
「物分りよくて助かるよ。ついでにさぁ」
不服そうな表情を浮かべると、男は続けた。
「約束しろ。西条に変なことさせんな」
――は?
「お人好しなダークヒーローだねぇ」榊が肩をすくめる。
「返事は」
「……わかったよ。きりちゃんにも関わらないし、今後西条とも最低限の仕事の付き合いしかしない。それでいい?」
「ああ。そこで伸びてるヤツにも言っとけ。高嶋っていうのか。いい年してくだらねぇことしやがって」
いつの間に抜き取ったのだろう。高嶋の免許証を眺めながら顔をしかめる男。
「オーケー。ちゃんと伝えておく。キミを怒らせたらヤバそうだし」
「じゃあな」
「ねえ。最後に教えてくれない?」
榊が微笑んでいる。敗北した割には楽しそうだ。
「なんだよ」
「キミはどこの事務所なの? 見ない顔だね。新人?」
「事務所? ンなもん入ってねぇわ。ああ、でもしつこく勧誘はされてんな」
しつこく、と言いながらも男は妙に穏やかな表情を浮かべている。殺気立っていたのが嘘のように。
吉川を俺から奪いそっと抱え上げると、俺の方を見ずにつぶやいた。
「行くぞ」
「え……」
「お前を連れて出なきゃ吉川が心配するだろうが」


