嘘つきピエロは息をしていない


 それからその女教師は、俺に個人的に関わるようになった。

 時間を作っては俺の家にご飯を作りにきて、何年もまともに掃除していない家を隅々まで片付け、たまった洗濯物も洗い、一度もアイロンのあてられたことのないシャツにはアイロンがけだってした。

 それだけでも驚きだったのに、生活費のあてにしてくれと金さえ与えてきた。

 もちろんそんなことは、あってはならないことだ。

『法外な利息つけたりする気じゃないでしょうね』

 俺のそんな冗談には

『まさか。でも出世払いでよろしくね?』

 明るく笑って返してきた。

 選んでなんていられないくらいギリギリの生活をしていたから女に素直に甘えた。

 施設にぶちこまれるくらいなら、使えるものはなんだって使ってやろうと考えた。

 それまでは家事を独学で実行していたが、知らないことだらけだった。

 色んな生活の知恵を女から教わった。

 ただの教師がそこまでするかってくらいかまってきたのがウザいのにくすぐったかった。

 母親がまともだったら、こんなことをごく普通にやってくれたのかもしれないと。

 そんな世間では当たり前で、俺にとってはあり得もしないことを考えながら、せっせと隣で働く女を呆然と眺めていた。

 きっとやりたいことだって、買いたいものだって、いくらでもあったはずだ。

 なのに当たり前のように俺にかまい自分の時間も貯金も減らしていたそいつのことバカなくらいお人好しだと思った。

 苦手意識しかなかった女という生き物と過ごす時間を重ねるたびに、家族って本来こんなものなのかなと。

 そんな温かみさえ感じていたんだ。