「あ」
吉川がぽつりとつぶやいた。
「どうしたの?」
「いや、今の、顔」
「……カオ?」
「初めて自然な笑顔が見られた気がして。やっぱり素顔も素敵だね」
そう言われて自分が頬を緩めていることに気づく。
なんで、俺、吉川の前で笑ったりなんか――
「西条くんのおうち大きいね!」
タクシーからおりた吉川は、口をあけたままタワーマンションを見上げている。
そのマヌケ面を見ていつものように表面上は笑い心の中で罵る余裕、今の俺にはないらしい。
並んでエントランスをくぐる。
後ろ髪を引かれる思いになるのは、吉川を先輩たちに渡すことを躊躇しているからだ。
「親について歩く子供みたい」
「え!?」
「別に。従順だなって、思っただけだよ」
「……なるほど」
怒ればいいのに。
バカにされてることに気づいてもいない。
「吉川さんってさ」
「?」
「彼氏いたことある?」
「えぇ!? ないよ?」
「……そう」
「っていうか、好きな人もまだいたことないかな」
「え?」
「でもね。友達に、好きな人がいるらしくてね。その話を聞いて、恋してみたいなぁって思い始めてる」
――女なんてみんな同じだと思っていた
「って、なんて話を西条くんにしてるんだろう私!?」
嘘つきで。
ズルくて。
信用ならなくて。
綺麗なんかじゃないと思っていた。


