「おい、ウチキ。どこ行ってたんだよ?」

 教室に戻るとウザ絡みしてくる連中がいた。

 いつものことだ。

「……シカトかよ」
「ムカつくな。ウチキのクセに」

 “内貴(ないき)

 それが、俺の名前。

 『ナイキ』を『ウチキ』と読み、『内気=気の弱くハキハキしない様』とかけて、“内気なウチキ”というアダナをつけられた。

「聞こえてねーんだろ」
「コイツいつも自分の世界にいるから」

 ――我、関セズ

 反論しなければ、怯えもしない。

 究極にダセェが成績優秀な謎めいたキャラを俺が貫くことで、特別イジメの対象になることもなく、平々凡々に生きていく。

 これぞ理想的。

 友人も、恋人も、なにもいらない――そんな自分にピタリと合った生き方。

 この無駄に重い眼鏡も前の見えない前髪も最初はウザかったが慣れてしまえばどうってことない。
 
 チラリと廊下側の一番後ろの席に視線を向けると、西条が女子に囲まれている。

 クラスの男子の中にはそれを羨ましがるやつもいれば長いものには巻かれるタイプのヤツ、そして芸能人気取り、と(うと)むヤツまでいるが、きっと、西条はああやって普段から愛想を振りまくのも仕事のうちなんだろう。

 それがアイツの魅せたい自分像なんだ。

 もっとも、生まれながらにして“西条様”なのかもしれないが、俺の予想ではアレは猫を被っている。

 あんな素で王子キャラこの世に存在してたまるかよ。

 ――人は、人の上辺ばかり見ている。

「……はやく終わっちまわないかな」