緋也は、頭を撫でていなかったもう片方の手だけで、俺のことをそっと抱きしめた。





「……緋……也?」






俺はまた戸惑いの声を漏らす。



「……緋也の緋は、情熱の緋なんだって。





僕の名前には、情熱を持った真っ直ぐな人になりますようにって意味が込められているらしい。





……昨日、テラスで魁人に名前を呼ばれた時に思い出したんだ」





緋也は、一つ一つの言葉を噛み締めるかのように、ゆっくりと話した。





俺は、黙ってそれを聞いていた。




「僕さ、今まで族潰しとかクスリとか、手当り次第女とやったりとか、まぁ散々な悪をして生きて来たんだけれど、………その事を思い出した時、思ったんだよね。





……今の僕を見たら、あの勝手に死んだ僕の両親は一体どう思うのかなぁって」


緋也の涙が、俺の薄手の黒いパーカーにこぼれ落ちた。





「緋也……」


掠れた声を出した俺の背中を、緋也は壊れ物を扱うかのように優しく撫でた。





「……まぁ、良いことは思わないよね。それどころか、がっかりして失望するんだろうね。





……そう考えたら、自分がどうしようもなく馬鹿に思えてきてしまってね」






そこで、緋也は俺の顔を見て、また苦笑した。