選手たちが帰ると、蜂の子を散らしたように生徒が体育館からいなくなる。

 わたしと亜弥を見つけたタロちゃんが、和泉くんを連れてこちらに歩いてくるのが見えた。

「興奮したわー! 小谷先生やってくれるわ」

 タロちゃんが上気した頬を光らせて笑う。

「日下格好良かった。触っちゃったよ~」

「なにそれ、右手?」

「ちょっと触らないでよ! 汚れる!」

 亜弥とタロちゃんのいつものじゃれあいを見て笑っていると、和泉くんも笑顔だった。

「凄かったね。和泉くん」

「全然。シューズがこれだから」

 学校指定の体育用運動靴を床にキュッと擦った。バスケットシューズならば、もっといい動きが出来たのだろう。

「……楽しかった。プロは違う」

 無理矢理参加させられる形になったけれど、和泉くんは怒っている様子はなかった。楽しかったという言葉が聞けて、良かったと思う。

「じゃあ、俺、帰るわ」

「あ、ああ」

「ありがとう」

 お礼を言って、3人に声をかけて、和泉くんは体育館を出ていく。

 言葉の続きは無かった。
 今日のことがあって、これからどうするとも、どうしたいとも、なにも言わなかった。

「どうするかな」

 そうタロちゃんに言うと「さあな」と返される。

 彼がどうするか分からない。心の中がどう揺れたかも、分からない。分からないけれど、いい方向に行って欲しいと願うばかりだ。

 そして、自分はどうしたいか。目を閉じてじっと自分の心臓の音を聞く。生きていると感じる。自分はいまを生きている。

 目を開けて、わたしは、小さくひとつの決心をした。