凄い。やっぱり凄いよ、和泉くん。

 1本のシュートでこんなに世界を変えることができるんだね。

 初めて見たコート上の和泉くんは、生き生きとして輝いていた。涙が出た。

「こんなひとをわたしは、見ていたんだなぁ」

 呟いた言葉は、声援にかき消されていった。


 いくつか交代しながらミニゲームをして、そのあとはバスケ部員にドリブルやシュートのアドバイスをしたりする場面もあった。

 いつの間にか、和泉くんはタロちゃんと一緒にボールを扱っている。笑顔が眩しかった。
 そして、サプライズ訪問が終わりに近付き、小谷先生が集合をかける。

「忙しい中、仙スパの選手たちに来てもらいました。今日のことは、きみたち部員にとってプラスになったと思います。4選手にはあらためて、お礼を言いたい。ありがとうございました」

 小谷先生に続いて、バスケ部員たちは一斉にお礼を言う。みんな、汗を拭い息が弾み、そして明るい表情をしていた。
 じゃあ最後にひとこと、と日下選手にマイクを渡した。

「今日は、僕たちもとても楽しい時間を過ごせました。高校時代を思い出しました」

 日下選手はひと呼吸置き、言葉を続ける。

「震災がありました。俺たちはそのとき、チーム存続の危機、活動停止も経験しました。もうだめだ、バスケができないと思った。津波で亡くなった仲間もいました」

 有名だとか、強いとか弱いとか、そういうことは関係なく、日下選手がいま語りかけていることを受け取りたくて、じっと聞く。

「スポーツでも勉強でもいい。この中に、いろんな事情があって、自分のやりたいこと、夢があるならその夢を、諦めようと思っている子がいるかもしれない」

 大勢いる生徒の中にいても、すぐ見つけられる。彼は、真っ直ぐ日下選手を見ていた。

「絶対に、諦めちゃだめだ」

 瞬きもせず、じっと。額を伝う汗が、涙に見えた。

「諦めるのは、すべてやってからで遅くないと思う。命があって体がある。そのときにやらないと、きっと後悔するから」

 生徒たちの顔をぐるっと見回して、日下選手は頷く。

「……今日は、本当にありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 他の選手も声を出し、生徒たちは惜しみない拍手を贈る。

 体育館にいる生徒たちと握手やハイタッチをしながら、仙台sparrowsの選手たちは帰っていく。わたしも、4人の選手全員と、パチンとタッチをした。大きな手だった。

「吉川、手伝いありがとな!」

 小谷先生が手を振ってくれて、そのあとバスケ部員に練習するよう伝えて、仙スパの選手たちに続いて体育館を出ていった。送り出してくるのだろう。