未完成のユメミヅキ

「和泉くんだ」

「なんか凄く嫌がっているけれど」

 タロちゃんが和泉くんの背中を押して行くと、彼は、次は小谷先生に掴まった。

 そして、仙スパの選手の前に連れていかれる。

「こいつ、バスケ部に入ろうかどうしようか迷っているんだよ」

「ちょっと、先生!」

「えーなに、経験者? ポジションどこ?」

 日下選手が聞いたら、和泉くんが顔を真っ赤にして下を向いた。あんな顔、初めて見る。

「はぁ……いや、あの」

「よし、この子も入れよう」

「あと1年はー?」

 有無をいわせない流れで、和泉くんが試合に出ることになった。タロちゃんほかの1年生で結成された即席チームは生徒4選手1混合の5対5に分かれ、ゼッケンをつけた。和泉くんとタロちゃんは同じチーム。和泉くんが出ることに、誰も文句を言わない。

「ね、あれ、この間の先輩たちだね」

 亜弥にそう告げると、彼女も分かっていたみたいで、険しい目で前を見ていた。

「そうだね。変なことしないといいけど。急に和泉くんが混ざってきて快く思っていないかもしれないから」

 でも、その気持ちも杞憂に終わる。
 先輩のひとりが、和泉くんとタロちゃんにゼッケンをつけてあげていたから。嫌そうな顔をしていなかった。彼らも、バスケを好きな心は一緒なのだろうと思う。

 大丈夫そうだなと、胸を撫で下ろす。


「ていうか、なによ、これ」

 試合開始のホイッスルが鳴り響く。
 ボールが空中に飛び、生徒と選手が走り出す。シューズが床を鳴らし、息遣いが聞こえてくるようだ。

 和泉くんの目の色が変わった。見ていて、分かった。
 タロちゃんがボールをカットし、流れが変わる。ドリブルで抜けていく。そしてボールを放つ。先には和泉くんがいる。

「和泉!」

 和泉くんにボールが渡った瞬間、全身が震えた。初めて見るチームでプレイする和泉くん。大きな目で、真っ直ぐ前を見て、走り出す。バスケットシューズじゃないけれど、気にもならない様子で。ぎゅっと膝を使って体勢を整えた。

「そこから打つの?!」

 亜弥が声をあげた。

 音もなく高くジャンプした和泉くんは、バネのように腕を伸ばす。美しい弧を描いてボールが流れていく。
 ワッと体育館が揺れた。声援で、空気が震えた。

 和泉くんが、3Pシュートを決めたから。

「なに、あれ。あいつ」

「あんなのいたのか?」

「なんでバスケ部に入らないの?」

 見学の生徒があれこれと騒いでいる。和泉くんを知らない生徒たちが、存在を知る。