未完成のユメミヅキ

「あのあっちで」

「あっち?」

「あっち、あの、一緒に」

 続きが出てこない。

 体育館に一緒に行かない? そう言えばこのまま来てくれると思う。そのひとことが言えない。
 そのとき、体育館外通路からバタバタと足音が聞こえた。

「お前ら! 手伝え!」

「えっ?」

 わたしたち目がけて走ってきたのは、小谷先生とタロちゃんだ。

「ちょっ、なに」

「和泉! お前、ジャージなんてタイミングいいな」

「体育だったんだよ、なんだよ、おいっ」

「いいから、こいっ」

 わたし必要あったのだろうか。タロちゃんはわたしと和泉くんを引っ張って、体育館に向かう。小谷先生は後ろにいる。これは、和泉くんは逃げられない。

 タロちゃんは和泉くんを、小谷先生はわたしを連れて、体育館の手前で二手に分かれた。

「い、和泉くんっ」

「あーとで、会えるから。ほら吉川はこっち。タロ頼んだぞ」

「ハイッ」

 わたしは小谷先生に連れられ、体育館の舞台側入口に向かう。

「誘導係やってくれ」

「え? え? なんですか。先生!」

「4人選手がいるから、俺が合図したらステージに出て!」

 選手って、なに?
 舞台袖まで進むと、薄暗い空間に、壁があった。いや、壁じゃない。人間だ。
 黄色いバスケのユニフォームを着た4人の男性。胸にはチーム名が入っている。

「仙台sparrows……」

「こんにちは」

 四人のなかのひとりが、人差し指を立てて静かにという合図をする。テレビで見たことがある人たちだ。新聞でも、タウン情報誌でも。

「なななな、なん」

 なにがなんだか分からず、口をパクパクさせていると、ホイッスルが聞こえた。

「みんな、ちょっと集合!」

 小谷先生の声だ。複数の足音もする。バスケ部員たちだろう。

「小谷さん、合図したら来てくれって言ってた」

「ハ、ハイ」

 わたしが誘導係を仰せつかったというのに、全く役に立っていない。なんのためにいるのだろうか。

「合図ってなに?」

「呼び込みあんの?」

「さぁ」

「テキトー」

 選手たちはあれこれと言い合っている。けれど、目を輝かせて笑顔で、そわそわとしている様子だ。

「これ、あれだ。サプライズってやつだ」

 ぽつりと言うと、選手のひとりが笑った。眩しい笑顔。

「選手、にゅーじょー!!」

 小谷先生が叫んだ。そのとき、大音量でアップテンポな音楽が流れた。

「あ、入場曲きたじゃん」

 4人の選手は円陣を組む。その中になぜかわたしも巻き込まれる。