未完成のユメミヅキ

「ぎゃあ」

 声が先だった。走り込んで、止まったつもりだった。

 つま先が床に引っ掛かったなと思って、気付いたら床の冷たさを顔面に感じている。え? なに、どうしたの、わたし。

 万歳の格好で俯せに倒れていることに気付くのに数秒かかった。

「い、いたい」

 どうやら転んでしまったようだ。

 本当にわたしはドンくさい。すぐには起き上がることができない。驚いたのと、痛いのと。まわりにだれもいなくて良かった。万が一、どこか怪我でもしていたら保健室はすぐそこだし。

 ちょっと深呼吸して落ち着こう。そしてゆっくり起き上がろう。顔がちょっと痛いほかはどこもなんともなさそうなんだけれど。床から顔を上げたときだった。

「まふ、ちゃん……?」

 声が降ってくる。

「ちょっと、大丈夫?」

「え、うん。ごめ」

 嘘でしょう? いちばん見られたくないひとがいるなんて。
 声の主は和泉くんだ。もう信じられない。みっともない。

「びっくりした。ゆっくり起き上がろ? ここ掴んでて」

 腕を掴んで起こしてくれる。自分の肩を掴ませて、ゆっくり優しく、支えながら。

「やだ。恥ずかしい」

「恥ずかしくない。俺以外いないから。どこ痛い?」

「おでこが」

「頭打った? クラクラしないか?」

「しない。打ったっていうか擦ったみたい。ヒリヒリしているだけ……」

 予想以上に近くに和泉くんの顔があったので、驚いた。和泉くんは、わたしの前髪をよけて額を確認している。

「うん、傷は無いみたいだ。ちょっと赤くなっているけど」

「どうして、いるの」

 言ってから、呼び出したのは自分なのになんて言い草だと反省する。

「いやあのごめんなさい。そうじゃなくて」

「最後の授業が体育だったから、そのまま来たんだ」

 和泉くんは後ろを指さす。なるほど、体育館で授業があったなら納得。

「そう、だったんだね」

「なんか、部活ですぐ使うみたいだったから、さっさと解散になった」

 きっとバスケ部だ。

「クラスのやつらも教室戻ったし。で、ここに来たら、まふちゃんが目の前で転んでた」

「ご、ごめん」

「べつに謝ることじゃない。大怪我してなくてよかったよ」

 和泉くんは笑っている。

「で、話って? まふちゃんの友達が昼休みに来たから」

「ああ、うんと」

 亜弥がここまでお膳立てしてくれた。目の前に本人もいるし、体育館はすぐそこだ。体育があったならそのままいて貰ってもよかったような気がするけれど、いま考えたところで、こちら側のリサーチ不足だ。
 ここからどうするか。