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この教室にいるクラスメイトの中で、叶えたい自分の夢を持っているひとはどれだけいるのだろう。
数年後、叶えたい自分の夢。職業でも欲しいものでもなんでもいい。
身長を伸ばしたい、ダイエットをしたいとか、告白したい好きな人がいるとか。
小さくても大きくても、夢は夢だ。
夢の芽は、大きく育つためにある。
それなのに、いろんな理由で夢の芽が摘まれ、息の根を止められる。
和泉くんの夢も、そうだ。
悲しいという言葉だけでは片付けられない思いは、ここ数日ずっとわたしの心にあって、息が詰まりそう。
廊下で見かける和泉くんにも声をかけられない。向こうに気付かれないように隠れたりする始末だ。
亜弥とタロちゃんは、そんなわたしに気付いているのかもしれないけれど、なにも言ってこない。
そんなことをぼんやり考えているうり、今日の授業が終わった。
「来週、どこかで小テストやるからな。やらないかもしれないけれど」
「センセー! どっちなんですか」
小谷先生と生徒のそんなやりとりを聞きながら、机の上に鞄を乗せた。
「タロ。それと、吉川。ちょっといいか」
教室から生徒たちが廊下に脱出していくなか、小谷先生がタロちゃんとわたしを呼んだ。
タロちゃんと視線を合わせながら、不思議に思いながら小谷先生のところへ行く。
先生は、わたしたちを教室から連れ出し、3人で廊下を歩く。
その途中で小谷先生とタロちゃんは、今日の部活であれを準備しとけとか、これを出しておけ、部長への伝達事項などを話していた。わたしは後ろでそれを聞いていた。
先生に続いて、職員室に入る。
なにか怒られることをしただろうかと思って身構える。タロちゃんも同じ気持ちかは分からないけれど。
「失礼します」
職員室には、あまりひとがおらず、静かだった。授業が終わってまだ先生たちが戻ってきていないのかもしれない。真っ直ぐ部活動にいく先生もいるだろう。
小谷先生は自分の机に教科書などを置き、振り向いた。
「ふたりに頼みがあるんだが」
先生が直々に頼みだなんて、なんだろう。少し身構える。
「お金ならないです」
「そんな頼みごとするわけないだろ。教師がカツアゲか」
ふざけたやり取りは、小谷先生とタロちゃんだから許されるのかもしれない。苦笑しながら話の続きを聞く。



