未完成のユメミヅキ

「和泉くん、わたしそろそろ帰るね」

「もう帰るの?」

 涼子さんが残念そうな顔をする。和泉くんは「おう」と時計を見た。

「ひとりで大丈夫か」

「平気だよ。ありがとう。今日は雨降ってないし」

 そう言うと、和泉くんが笑ってくれた。

 いただいたロールケーキがたくさん入った紙袋に、残した1個を包んで入れた。残りのカフェオレをぐっと飲む。カラカラに乾いた喉が潤った。

「また、来てもいいですか?」

「もちろん。和泉、連れてきてね」

「なんで俺が」

 あんたなに偉そうなことを、と涼子さんが和泉くんのお知りをバシンと叩いた。和泉くんが口をとがらせる。

「キーホルダー作って貰ったんでしょ!」

「えっ」

 和泉くんがわたしを見た。言ってない、違うよ。和泉くんが言ったの? そんな意味の視線が交わされて、和泉くんが「俺じゃない」と首を振った。

「なんで知ってんだよ!」

「分かるわよ。そんな可愛いのつけて、こんな可愛い子を連れてきて」

 涼子さんがわたしの肩を抱く。可愛い子って、わたしのことなのか。

「え、えっ」

「ばっ、なっ」

 真っ赤になっている和泉くんを、涼子さんが肘で突いている。凄い。涼子さん魔法使いみたいだ。

 和泉くんが、エプロンを外してカウンターにかけた。

「俺、駅まで送るから」

「え、いいよ。すぐそこだし」

 まさかの申し出に、驚く。涼子さんが「女の子の独り歩きは危ないから」と背中を撫でてくれる。
なので、甘えることにした。

「麻文ちゃん。またいつでも来てね」

「はい。ありがとうございました」

 店の入り口で、振り向いてひとことだけ、涼子さんに伝えた。

「キーホルダー。よく効くんです。魔法がかかっているんです」

 わたしの願いは叶えられなかったかわりに、友達の願いは叶うの。
 みんなの夢と願いを叶えて欲しいと願う。

 涼子さんに手を振って、店をあとにした。