そして『USAGI』に到着する。カランとドアベルが鳴った。初めて入った時と同じ音。奥から涼子さんが出てきて「麻文ちゃん!」と駆け寄って肩を抱かれる。少々びっくりする。カフェスペースに、女性の二人組が座っていた。
「熱出たんだって? いらっしゃい。奥へどうぞ」
ひとつのテーブルに案内された。それと同時に、女性二人組の客は会計に向かうらしく、席を立った。
「ありがとうございました~」
「俺、やるよ」
いつの間にかお店のエプロンを装着した和泉くんが、レジへ向かう。
「飲み物、なににする?」
「あ、ええと。じゃあカフェオレを」
和泉くんが会計対応を終えて奥へ入っていった。このままバイトに突入するのだろう。涼子さんがカフェオレを持ってきてくれた。
「わたしはお店があるし、和泉に連れてきて貰わないと会えないと思って。無理矢理ごめんなさいね。体調はもういいの?」
「はい。もう元気です。念のため二日休んだ感じです」
「風邪ひかせてしまって。追いかけて傘お渡しすればよかった。本当に、お母様にも謝らないといけないところだわ」
しきりに恐縮する涼子さんに、申し訳なくなってしまう。
「そんな。わたし、環境が変わると体調崩すんです。高校生活の疲れが出たんだろうって。小さい頃からそうなんです。雨に濡れたからだけじゃないです」
涼子さんは申し訳なさそうにしながらも、笑ってくれたから安心した。そして、なにやら紙袋を渡される。
「これ、お詫び。わたしと和泉から。あとこれも」
紙袋の中身はお店のロールケーキだった。そしてお皿に2種類のロールケーキを出してくれた。
「えっ、こんなにたくさん!」
「荷物にしちゃってごめんね。帰ったらご家族と食べてください」
「うわぁ~嬉しいけれどなんだかすみません」
「食べて、食べて」
フォークをロールケーキに入れて、切り分けて口に入れる。ふっくら甘くてとても美味しい。あっという間に1個食べてしまった。もちろん、ふたつとも食べて帰るつもりだけれど。
涼子さんがテーブルの向かいに座る。和泉くんは先ほど退店した客の後かたづけをしている。
「和泉、わたしちょっと麻文ちゃんとおしゃべりしていていいかしら」
「ハイハイ。俺、厨房の掃除、してきます」
「お願いします」
皿とカップを乗せたトレーを持って、和泉くんは奥へ消えた。



