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 次の日。

 体調も髪型も絶好調だ。熱も下がって、お母さんも安心して送り出してくれた。

 寒気も怠さもないし、きっと大丈夫だと思う。朝ご飯もしっかり食べた。大好きなプレーンオムレツとご飯と、お味噌汁。

 今日は放課後、和泉くんに会う。休み時間に廊下で会ったりしちゃうかもしれないから、なるべく教室にいよう。廊下を歩くときは目を閉じて壁を伝って歩こう。

「なにしてんの、まふ」

 廊下の壁を伝って歩いているわたしに、亜弥が後ろから声をかけてきた。

「おはよう。もう大丈夫?」

「うん。もう全快」

「よかったー。心配したの。日曜日、雨に濡れたんでしょう」

「そうなんだよー。帰りに強く降っちゃって」

 亜弥に向かって笑いながら頭を掻いた。途端に亜弥の目がきゅっと厳しくなって、わたしは腕を掴まれる。

「なんか、あったのね?」

 亜弥の勘は鋭くて困る。すぐ分かっちゃうんだもの。

「はは。なんてことないの。大丈夫」

「本当? なんか言われたの? ぶん殴ってこようか」

「大丈夫、そんなことしたら亜弥が怪我するし」

 笑いが渇いているのもきっと気付かれている。でも、亜弥には悪いけれどあまりあれこれ喋りたくはなかった。

「ごめんね、亜弥。ありがと。大丈夫だよ」

 彼女を好きで信頼しているから、こんな風に言えるのかもしれない。きっと色々、亜弥は気付いているだろうから。亜弥は、じっと見つめてきたあと、いつもの可愛らしい笑顔になる。

「昨日のノートあとで見せるよ」

 深く追求せず、さらりと話題を変えてくれた。少しほっとして、肩の力を抜く。

「助かる。ありがとう」

 二日間の休みの間にどんな授業、出来事があったのか、亜弥から聞いている間に先生が来て、今日の授業が始まった。

 自分から連絡しようかどうか迷ったまま、最後の授業が終わってしまった。

 少し焦っていた。だって、和泉くんと放課後会うことだけ約束して、時間とか場所を決めていないことに気付いたから。すれ違って、先に帰っていたらどうしようとか。だったら連絡を入れればいいのにと思うのだけど、それができない。うじうじした考えの自分に腹が立つ。

 鞄に教科書を入れながら、ソワソワと携帯を見た。なにもメッセージは入っていない。これはもう、いま終わりましたとか、どこへ行けばいいのかとか、連絡を入れないとだめだろうなと思う。