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 深く、深く、眠った。

 目覚めて、一瞬、自分がいまどこにいて何をしているのか分からなかった。映画のように数本の夢を見ていたような記憶があるのだけど、内容が思い出せなかった。

 部屋が薄暗い。細く開いているカーテンから光は入ってこない。どうやらもう太陽は沈んだ時間のようだ。
 ハンガーに制服がかけてあって、自分が学校を休んだことを思い出す。
 起きあがると、だいぶ体が楽になっていた。熱が下がったのかもしれない。
 枕元に置いてあった携帯にランプが点灯している。

『だいじょうぶー?』

『おーい、生きてるかぁ』

 亜弥とタロちゃんから、いくつかメッセージが入っていた。

 病院に行ったことは覚えているけれど、周辺の記憶がおぼろげだった。それだけ高熱が出てしまったということなのだろう。

 自覚が無かったけれど、雨に濡れたぐらいでこんなに重い風邪をひくなんて、よほど疲れが溜まっていたのだろう。

 相変わらず、新生活って慣れるまで大変。
 高校生活は環境が変わっただけでなく、自分のなかで新しいことも起こったから。

 ひとつ溜息をついて、ベッドから降りた。

 体温計を脇の下に挟み、温くなったスポーツドリンクを飲んだ。喉が渇いていた。あと、お腹も空いている。部屋を出てリビングへ行った。

「あら、おはよう」

「おはよー」

「もう夜の6時ですよ」

 病院から帰ってきたのが昼前だったはずだから、ずいぶんと長く眠っていたものだ。
 ちょうど、体温計の電子音が鳴る。取り出すと『37.2』と表示されていた。

「熱下がったね。良かった。食べられそう? お粥あるけど」

「うん。お腹空いた……」

「食欲出てきたのね。安心したわ」

 リビングのソファに腰を下ろしてテレビを点ける。
 地元のスポーツに特化した番組が放送されていた。プロ野球チームやサッカーチームの話題、もちろん『仙台sparrows』の話題もやっていた。

 お母さんが用意してくれた温かいお粥を食べる。お粥には溶き卵が入っていた。


「美味しい……」

「調子はどう? まだ寒気する?」

「ううん。もう平気」

「それ食べたら、夜の分の薬を飲んで、横になりなさいね」

 さっき起きたばかりなのに、眠れるだろうか。

「消耗しているんだから、ベッドに入っていれば眠れるから」