「関係ない、だろ」

 関係ないって、なにが? なにを言っているの?

「……返すよ」

 ぼそっとそう言うと、涼子さんから受け取った紙袋を持って、奥へ行き、すぐに戻ってきた。手のひらに、わたしが作ったバスケットボールのキーホルダーが乗っている。

「返すって、なんで」

 和泉くんの応援のために。お守りなの。彼を守ってくれるの。このキーホルダーはそういう思いを込めたの。



「お守りで……こ、これ」

 受け取りたくないと、自分の手が震える。和泉くんの手のひらでキーホルダーがコロリと動く。

「きみは、やりたくでもできない時があるって、知らないんでしょう」

「和泉、く」

「俺を妄想で作り上げて、勝手にヒーローにしないでくれよ……」

 濡れた瞳は苦しそうに歪められていた。
 わたしの、自分勝手な応援したい気持ち、独りよがりな心のせいで、彼を苦しめている。

 なにか、知らないことがある。分かっている。

 同級生で、もしかしたら友達の位置にいるのかもかもしれないけれど、和泉くんのすべてを知る権利が、わたしには無い。知りたいし、もっと友達になりたいのに。

 勝手に妄想して、勝手に、そう。彼を実態のないヒーローにしているのは、わたし。

 そうしないと、自分が壊れそうだったから。

「ほっといて……くれよ」

 噛み殺されたその言葉は、消えてしまいそうだった。

「ご、ごめんね……っ」

 それだけ言うのが精一杯だった。わたしは鞄を取ると、和泉くんのわきをすり抜けるようにして店の入口へ向かった。

「あれ、麻文ちゃん?」

「すみません、ごちそうさまでした!」

「え、ちょっと! 傘は!」

 ドアベルを派手に鳴らしながらドアを開けて外に飛び出した。頬に雨が当たる。涼子さんは外に追いかけてきてくれたみたいで、声が聞こえた。でも、振り切るようにして走った。

 前髪が濡れる。そのうち背中のほうも濡れる。

 胸に抱えた、ケーキの箱が入ったビニールのカサカサ鳴る音と、水音を立てる靴。和泉くんのあの悲しそうな目と声から逃げるようにして、掻き消したくて、バシャバシャと足音を増やした。

 濡れた目と、辛そうな声が焼き付いて離れない。雨に濡れたら流せると思った。

髪の毛を伝って雨水が目に入り、涙と混ざった。冷えていく体と頭。でも胸の中の思いだけがジクジクと膿むように熱かった。

 応援したかっただけ。あんな、苦しく悲しそうな顔をさせたかったわけじゃないのに。

 その気持ちはわたしの勝手だけれど、存在理由でもあった。
 和泉くんを悲しませるためのものじゃないのに。