「こいつ、天田だ。汐丘中のシューティングガード」

「ああ……うちの学校に入ったんだったな」

 さすがに、知られた存在なのだ。それだけの選手なのだ。

「こいつもウチはいるの?」

「知らねぇ。いま部活に来てねぇじゃん」

「まだ悩んでいますって感じで、もったいぶって入らないんじゃねーの」

 無神経に浴びせられる言葉に、腹の中が沸騰する気持ちだった。
 そんな先輩達を、冷たい目で見下ろした和泉くんは、静かに言った。

「がんばることを馬鹿にするやつは、なにも凄くない。怖くもないし偉くもない」

「なんだと!」

「最高に、格好悪い」

 先輩のひとりが立ち上がって、和泉くんに詰め寄ろうとした。そして仲間に止められる。
 バスケ部というだけあって、みんな背が高い。こんなふうに詰め寄られたら、普通のひとなら逃げてしまうんじゃないだろうか。

「やめとけ……。お前、そんな偉そうなこと言って、何様だよ」

 先輩に凄まれても動じない和泉くんは、じっと先輩を見た。

「何様でもないです。ただのいち生徒ですから」

「中学時代にちょっとうまかったからって、お前も調子乗ってんのか」

 その言葉と先輩の馬鹿にしたような態度に、カチンと来た。やめて。和泉くんにそんなことを言わないで。なにも知らないくせに。わたしも知らないけれど。

「俺のことは関係ありません。藤野のがんばりを馬鹿にするのが、許せないだけですよ」

 冷たい視線でそう言った和泉くんは顔を上げた。そして、目が合う。わたしと亜弥に気付くと、ふっと柔らかい表情になった。

「タロちゃんも和泉くんも、凄い選手なんですからね! ばか!」

 叫んだわたしに、和泉くんも含めその場にいる先輩達は驚いていた。
 ばかって言っちゃった。

「お前、なんだよ……!」

 今度、先輩達の矛先はわたしになったようで、全員がこっちを向いている。大きいし、怖いと思った。
 もうひとことなにか言ってやろうとしたところに、和泉くんが階段から飛び降りてきて、わたしの手を掴んだ。

「……なにやってんだよ。行くぞ!」

 和泉くんは亜弥にも声をかけ、走り出した。

「待て! この!」

 後ろから怒鳴り声が聞こえたが、追いかけてくる様子はなかった。