「タロは有料」

「なんだよ。亜弥のケチ」

 美形vs美形の決着はつかない。

「タロ、部活もう始まったんだよね」

「ああ、先週1回、男バス部の顔合わせと軽いアップした。まだ1年だから練習に慣れるのが先かな」

「とはいえ、すぐレギュラー候補だしね。わが松岡中のエースだった藤野太郎は」

 亜弥にそう言われたタロちゃんが、キャラメルを口に放り込んで亜弥の頭をくしゃりとかき混ぜた。

 わたしと亜弥、タロちゃんは松谷中の同級生で、高校も同じ海英高に進学したのだ。

「ばかだな。うまいやつは他にもいるんだよ」

 タロちゃんは、キャラメルをもぐもぐしながら、頭を掻いた。

「最初からバスケって決めていてすぐ入部するやつもいれば、悩んでこれからゆっくり入部してくるやつもいて、その中に隠れキャラがいるかもしれないし」

 他の部はどうか知らないけれど、海英は男子バスケの強豪校なので、経験者も多く入部してくる。なので、けっこう最初からガンガン練習をするらしい。まだ慣れないし、きつくて吐きそうになるとタロちゃんは言っていた。

「今日は部活あるの?」

「いや、今日は無いらしいよ。顧問が来られないとかで」

「そうなのかぁ、残念。まふ誘って見に行こうかなって思っていたのに」

 亜弥がそう言うと、タロちゃんは表情をぱっと明るくして、わたしと亜弥を交互に見た。


「あ、でも俺は体育館でちょっと自主練やっていこうかなって思っている」

「そっかー。じゃあ今度にしよう」

 亜弥は鞄にキャラメルをザラザラと入れて片付け始めた。ポーチから出したのに鞄にそんな無造作に入れるなんて。

「えっ、俺、ちょっとやっていくって」

「あんただけ見ても仕方ないんだけど」

「うっそ。まふも帰る?」

「うん、帰る」

「タロ、まふを自主練に付き合わせようとしている。断ったほうがいいよ」

「うん、帰るね」

 亜弥とタロちゃんのやりとりが面白かったから、笑ってしまう。ノリツッコミ的にもう一度言ってみた。

「二回も言うな。お前ら、酷くない?」

がっくりと肩を落とすタロちゃんだった。亜弥は完全に下校モード。わたしも帰ろうと思う。

「つまらないとまではいかないけれど、自主練するならタロちゃんの邪魔になりたくないし」

「言い方な。まふは優しいのう」

「悪かったわね、威圧系で」

 とはいえ、せっかく見るならやっぱり部員全員の練習かな。でも、それは口にしない。

「まぁいいや。んじゃ、次の機会に」

「うん。イケメンの先輩とか物色しに行くね」

「亜弥、言い方な」

 亜弥に指を突き付け笑いながら、タロちゃんは教室を出て行った。

「つまらないなぁ。見たかったのに」

 亜弥はため息をついて、鞄を持った。

「そうだねぇ」

 バスケ、できないけれど見るのは好きだ。

 ついでに格好いい先輩や同級生がいたらときめいたりして。タロちゃんのこともそうだけれど、頑張っているひとを応援したい。自分も頑張ろうと思えるから。

 ミーハーな気持ちも少しはあるけれど、応援して自分も元気になりたいと、思う。