「まふはとりあえず、ファンから入ってるからな」

 その通りで胸が痛い。

「でも、いちばんのファンなんでしょう?」

「……そう思っているけれど」

 やっぱり心の中がモヤモヤするのは仕方がない。
 いちばんのファンだけれど。それは自分の勝手な思いだから。

 何度ついたか分からない溜息をまたついて、教科書とノートをまとめた。

「次ぎ、教室移動だから早めに行こう。席が前しか無くなる」

「そうだね」

 まだ昼食を食べているクラスメイトもいる中、亜弥と一緒に教室を出た。

 騒がしい廊下を通り、特別教室へ行く階段に差し掛かる。
 そこに、3人の男子生徒がいて話していた。ネクタイの色は2年生。先輩だ。

「あれさ、1年の藤野さ」

 通り過ぎようとしたところ、タロちゃんの名前が出たから、聞き耳を立ててしまった。亜弥も聞こえたらしくこちらを見てくる。

「あいつ、居残りや自主練とかバリバリやってて、なにアピールなんだよ」

「がんばってますアピール」

「そういうの面倒くさい、うざい」

 想像もしていなかった言葉が耳に入ったから、思わず足を止め、亜弥と顔を見合わせた。小さな声で話しかけてくる。

「あのひとたち、バスケ部だ」

「亜弥、分かるの」

「うん。部員は多いけど、練習で見た顔だよ」

 さすが亜弥。よく見ている。わたしにはさっぱり見覚えがない。

「松岡中のエースだったかもしんないけど、ここではたいしたことないから」

「がんばりを小谷に見せつけたいんだろ。インターハイの地区予選も来月から始まるからスタメン狙うだろうし」

「アピールいやらしいよなぁ」

 陰口だ。言いたい放題のあと、ひとりが鼻で笑った。

「今度、試合でボコボコにしてやんぜ」

 思わず、わたしは先輩達に向かって踏み出そうとして、亜弥に腕を掴まれた。

「まふ。だめだよ」

「だって……!」

 ボコボコにって、怪我させるつもりなんじゃ。背筋が凍る言葉だった。いじめじゃないか、それ。

「先輩たちも、たいしたことない選手ですよね」

 聞き覚えのある、落ち着いた声が聞こえてきた。階段の上から和泉くんが降りてきたのだ。

「なに、お前」

 先輩たちが、長身の彼を睨む。怒ったに違いない。