◇


 こういうとき、同じクラスではないということは都合がいいなと思う。携帯に表示された和泉くんの連絡先を眺めながら、溜息をついて数日を過ごしている。我ながらちょっと気持ちが悪い。

 特別な用事があるわけではないし、連絡もできない。


「亜弥、タマゴサンド食べない?」

 お昼休み。朝からずっとついている溜息と一緒に食欲も出してしまったようだ。

「食べる」

 亜弥に開封前のタマゴサンドを渡すと、ふたくちで食べてしまった。

「1個でいいよ。まふ食べて」

「……うーん」

 おにぎりをひとつ食べているんだけれど、正直もう食べたくなかった。いつもなら軽くたいらげるのに。

「なんか、この間から様子が変だね」

「そう?」

「天田和泉でしょ?」

 亜弥にはもう何も言わなくても分かっているのだろう。わたしが単純だから。

「……和泉くんね、バスケ、辞めたんだって」

 わたしがそう言うと、声もあげずに目を丸くした亜弥だった。和泉くんの名前はフルネームで呼ぶくせにこういうところは空気を読む。

「どういうこと?」

「そもそも、男バス部に入部すらしていない」

「なるほど。練習を見に行ってもいないわけだね」

 彼女の言葉に頷いた。また溜息が出る。そういうことなんだよ。いくら探してもいるわけがない。

「麻文はどうして知ったの?」

「本人から、聞いた」

 亜弥が心配そうな顔をするから、大丈夫だよという意味で微笑んでみた。

「なんか、びっくりしちゃって……えへへ」

 高校生になった和泉くんは、海英高男子バスケ部のユニフォームを着るのだろうと勝手に思っていたから。それが楽しみだったし。

「どうしてだろうね。辞めたなんて」

「理由は知らないんだ。小谷先生とも話したんだけど、それは本人に聞けって」

「まぁ、ベラベラ喋っていいことじゃないかもしれないからね」

 ふたりでため息をついた。
 亜弥は結局タマゴサンドを全部食べてくれた。彼女はたくさん食べるのに細いから羨ましい。食べ終わったビニールを握り潰してゴミ袋に入れた。

「あーあ。せっかく仲良くなれたと思ったのになぁ」

「なんだか、モヤモヤするね」

「とはいえ、亜弥やタロちゃんみたいにとても仲の良い友人であるわけでもなく、中学から一緒でもないし、バスケ部でもない。わたしがいちいち顔出すわけにもいかないじゃん」

 嫌われてしまうのがいちばん嫌だ。